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期待のルーキー?ナトリウムイオン電池

7月29日に、世界最大の電池メーカーであるCATL社 (寧徳時代新能源科技)が、ナトリウムイオン電池(NIB)の量産化を開始すると発表しました。
そこで、今回はナトリウムイオン電池の特徴ご紹介と期待される用途について考察したいと思います。

ナトリウム=1族の元素

ナトリウムイオン電池の特徴は、その名の通り正極活物質にナトリウムを採用したことにあります。
以前の投稿でアルカリ金属のご紹介をしたことがありますが、リチウムイオン電池で用いられているリチウムと同様に、ナトリウムも周期表の一番左、つまり1族の元素であり非常に反応性が高いことが知られています。
電池の正極材料としても以前から研究されてきていたのですが、リチウムと比較した特徴としては、以下が挙げられます。

特徴1=材料調達が楽

既存のリチウムイオン電池は正極活物質にコバルトが用いられていますが、コバルトは産出国が南米・豪州・中国などに偏っているレアメタル(希少金属)であり、コスト面や供給安定面でリチウムイオン電池の普及の障害となってきました。

 

これに対してナトリウムは地理的な偏りが少なく、地殻の2.6%を占める豊富な元素です。
よって、電池の活物質としても潜在的なコスト競争力があると思われます。
私たちの生活において、電池のより一層の利用普及を可能とすることが期待される素材です。

特徴2=エネルギー密度は低め

ナトリウムを正極活物質として採用した電池の性能はどうかというと、先のCATL社の発表では、エネルギー密度が低めとなっていました。
エネルギー密度は大きな値であればあるほど優れていることになるのですが、一定の電力で何時間もつかといった性能を電池の重量あたりまたは体積あたりで表し、例えばEV用の電池であれば走行距離に直結します。
CATL社の発表では、今回開発のナトリウムイオン電池のエネルギー密度は160Wh/kgと、同社リチウムイオン電池(正極リン酸鉄系、200Wh/kg弱)と比較して若干見劣りする数値に止まっています。

特徴3=急速充放電が得意

エネルギー密度では既存のリチウムイオン電池に若干劣位であるナトリウムイオン電池ですが、レート特性では優位なようです。
レートとは電池に通電する電流の大きさを意味しますが、レート特性が良いということは大電流を通電して急速に充電や放電が可能ということ意味します。
EV用の電池であれば、急速放電により加速性能が優れるとか、急速充電により充電時間を短縮できる、といった点に関わってきます。
CATL社の発表では、今回開発のナトリウムイオン電池は、たった15分の充電で約80%を充電できるとのことです。

特徴4=低温特性が良い

さらにCATL社は発表中でナトリウムイオン電池の低温特性の良さをアピールしています。
電池性能は使用される環境、特に気温に大きく影響を受けます。
皆さんも寒い日にバッテリーの持ちが悪くなった経験があると思いますが、低温下では電池は本来の性能を発揮しにくくなります。
ところが、今回開発のナトリウムイオン電池は、マイナス20℃の環境下でも放電容量90%を維持とのことですから、かなり寒冷地に強い電池ということができます。
中国東北部やロシアなどマイナス20℃もしくはそれ以下に普通に達する寒冷地には、電池の低温特性が不足するため向かないとされきたEVが、ナトリウムイオン電池の採用により活用される可能性が開くかもしれません。

期待される用途

上記特徴を踏まえ、ナトリウムイオン電池の登場により、私たちの蓄電デバイスを利用する生活がどのように変わるのか考察してみたいと思います。

 

まずは、急速充放電が得意な点を活かして、ハイブリッド車での普及が進むのではないかと考えます。
EVでは走行距離に直結するエネルギー密度が最重視されるのに対して、ハイブリッド車では加速が良いことや減速時に効率よく回生エネルギーを取り込める性能が重視され、この点で優れる場合にはハイブリッドシステムの小型化が可能となります。
さらに低温特性も優れている点を考慮すると、「寒冷地向けのハイブリッド車用電池」が良いように思います。
CATL社での発表ではEVのバッテリーユニット内にリチウムイオンのセルとナトリウムイオンのセルとを組み合わせたコンセプトを発表しており、両者の良いところどりを提案しています。

 

もう一つは、電力貯蔵用などの定置型電池としての普及がありえると思います。
ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池と比較してエネルギー密度が低いですが、これが主に問題となるのは自動車用など電池の設置スペースや重量が問題となる用途です。
逆に、設置スペースや設置可能重量に余裕がある用途の場合は、エネルギー密度はそれほどシビアな要求を受けないことから、希少な材料であるコバルトを用いないナトリウムイオン電池の潜在的なコスト競争力や、低温特性の良さによる寒冷地での長期安定作動のメリットが活きる可能性があるように思います。

さて本日は、最近量産化が発表されたナトリウムイオン電池についてご紹介させていただきました。
実際に市場に出回り始めてからどのような評価を受けるか、楽しみです。

ABOUT ME
ichiro.k
53歳。大手素材メーカーで複数の営業部門、複数のスタッフ部門を渡り歩き、50歳を過ぎて新規用途探索・製品開発に関わる。文系の学部卒で後にMBAを取得した超文系人間だが、周りが理系だらけの職場で長年勤務することで技術の「知ったかぶり」が得意技に。本ブログでも何となくわかったかのような技術ネタを、さわりだけご紹介し読者の方々の「知ったかぶり」度向上に貢献します。