Uncategorized

追悼 根岸英一さん

2010年にノーベル化学賞を受賞した米パデュー大学特別教授の根岸英一さんが6月6日に亡くなられたと報道されています。
そこで、今回は根岸英一さんの「クロスカップリング反応」開発概要をごく簡単に振り返りたいと思います。

クロスカップリング反応とは

私たちは多くの有機化合物を有機合成反応により人工的に作り出して利用しています。小さな分子を結合させながら目的の機能を発現する有機化合物を合成するために、炭素-炭素結合反応(カップリング反応)が重要な技術として用いられます。
通常のカップリング反応では同一分子同士で結合を作ることはできていましたが、化合物としては単純なものに止まっていました。
より複雑かつ高機能な化合物を効率よく作るための技術として、異なる分子同士を結合させるための技術がクロスカップリング反応技術というわけです。

根岸英一さんの業績

クロスカップリング反応は、基本的には「有機金属化合物と有機ハロゲン化合物とが、遷移金属という特殊な触媒の存在下で結合する」反応であり、触媒としては反応性や安定性、適用原料の広さから1975年以降はパラジウムを用いた研究が盛んにされていました。
根岸英一さんもパラジウムを触媒とした研究をされていましたが、それまでに適用可能性が確認されていたリチウム試薬に代わり有機亜鉛化合物を用いるクロスカップリング反応(根岸反応)を1977年に発表し、反応性が低くより穏やかな条件での反応が可能となることと、他の官能基との反応性が低いことによる使いやすさ、を報告されました。

クロスカップリングの社会への応用

クロスカップリング反応は、今日広い分野で産業利用されています。
エレクトロニクス用途では液晶材料や有機EL材料、半導体製造工程で利用され、その他では高圧剤や抗がん剤などの医薬や農薬の生産にも応用されています。
高機能な有機化合物の開発・生産に最も利用されている有機合成技術がクロスカップリング反応技術であり、その礎を築いたお一人が根岸英一さんなのです。

若者よ、海外へ出よ

根岸英一さんは日本の若手研究者に対し、内向き思考にならず一定期間海外へ出て研究することの重要性を説かれてきたことでも有名です。
私はこの根岸さんのメッセージを、研究者=理系の人のみならず、文系研究者・文系職含めた全ての日本人にとって、居心地の良い場所で小さくまとまらずに広い世界で勝負し視点を広げることの重要性を説いておられるものと理解しています。


ABOUT ME
ichiro.k
53歳。大手素材メーカーで複数の営業部門、複数のスタッフ部門を渡り歩き、50歳を過ぎて新規用途探索・製品開発に関わる。文系の学部卒で後にMBAを取得した超文系人間だが、周りが理系だらけの職場で長年勤務することで技術の「知ったかぶり」が得意技に。本ブログでも何となくわかったかのような技術ネタを、さわりだけご紹介し読者の方々の「知ったかぶり」度向上に貢献します。